『 静かなる夜更けの月に捧ぐ 』


暗闇 目を覚ます
暗闇 ただ静かに
暗闇 僕を救って
暗闇 何も見えない

もう 言葉さえ見失って
この 胸の傷が痛み出す
でも 痛みを表すことさえ
そう 許されはしなくて

「苦く辛い夜の涙に倒れる僕の
   なんとなんと小さなことでしょう」

暗闇 歩き出す
暗闇 手探りのまま
暗闇 僕を抱いて
暗闇 何も変わらない

ただ 空の月が泣いている
あの 星々の慰めも聞かず 
だが 僕は泣くこともできず
まだ 彷徨い歩くのだ

「深い深い夜の窓辺で輝く月は
   それはそれは美しいことでしょう」

暗闇 微笑む死
暗闇 その手は白く
暗闇 僕は踊って
暗闇 何も見えない

「甘やかなる闇のその手を取りし君の
   なんとなんと穏やかなことでしょう」



 作者不明(キリム=ミシュカの作と伝承)
 『ジヤードの角笛』刻文より抜粋 碧雷暦872年作 




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