『 霧と嵐と航海の夜 』

沈んでしまった船を眺めて 嘆くのは簡単で
沈まないようにするのは そう簡単なことでもなくて
迷わないように進めることは たぶん殆どないはずと
そんな話なのだけど
私は今 迷う道さえ見失っている?

言いようのない不安抱えているのが
私だけじゃないことは知っている
でも実感なんてないから
また同じ……繰り返し

自分を嫌悪しているふりを続けて
甘いまどろみと幻に浮かんでいるだけの
重たいからだ

逃げてばかりいる臆病なわたし
自分自身のことしか目に入らない私

まわりのみえない 気を配れない

わたし

そんな私に差し伸べられるような手が あるはずもなく
緩やかな季節と 早瀬のごとき時の狭間で
あえぎ おぼれているのだ

ともにいた人たちの声さえ 聞き届けることはなく
裏切られた彼らは怒りという 涙を流しながら泣く

自分の声さえ届けることをしないで
また深く沈んでゆく
浮かぶことをあきらめてしまった
大海のなかの 小さなちいさな泡のように

泡沫のかけらが この星から決して
消えてしまうことがないように
沈みかけた船でも さらに壊れることになっても
少しづつでも 舵を取ろうか

明けそうにない暗い夜の底でただよう
この心に
暁はいつか 新しい光を
投げかけてくれるだろうか……



 顛綾 著 『心象原画』より『霧と嵐と航海の夜』
 星歴2005年初版 森羅出版社




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