僕は、多分そこにいた。

いや、確かにいたのだ。そうでなければ、あんなものが手についていたはずがないから。

紅いものだった。鮮やかな色をした、あかいもの。それは、時間がたつにつれて少しずつ黒ずみ、とろりとした感触はだんだん粘ついてきて……僕の手は、むらさき色であかい、そんなカタマリにおおわれていた。

誰が……こんなこと……

自分以外、考えられなかった。だって、他にはだれ一人としてその場にいなかったのだから。

まだ真夜中で、月もなく、星ぼしは煌めきを消して、ひっそりと冷たい風が吹いているばかりであった。しばらくぼんやりとしていて、窓の外をふと見ると、いつの間にか大吹雪がふき荒れている。

僕は、多分そこにいた。

するどい刃が鈍くぎんいろの光を放ち、氷のような感覚が指につたわる。

僕の心も、その刃と似ていた。その身はすぐに折れてしまいそうなほど薄っぺらなのに、ひどく冷たくて鋭くて。身を守るためだったのか、自らその血を求めていたのかすらも、もはやはっきりとはしないのだ。ただ、自分がじぶんでないような、そんな気ばかりがしていた。妙にすっきりした気分でもあった。

やがて朝日が昇るまで、目の前に横たわる「それ」が何なのか分からなかった。








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