俺の誕生日はあの日。あいつの母親が、あいつを襲った日だった。 薬でラリってやがったんだ、あの女は。逃げまどう背中に、金属の羽根をつきたてようと迫ってきた。……その日あいつは、十の誕生日を迎えた。 それまでも何度か、俺は完成しかけた。あいつが母親のことをひとつ、嫌いになるたびに、俺のカタチは出来上がっていった。あいつが涙を流すたび、おれは殻の中で身をよじった。 おれの誕生日はあの日。血と悲鳴の祝福の中で、産声をあげた。 俺だよ……おまえの母親を殺したのは。 白い小さな氷の粒が、ごうごうと渦巻いているのがわかった。荒れくるう雪明かりの中に、風がひゅうるり、ひゅうるりと、情けない声でなげいている。 ……俺を、怨むか……?おまえは…… 生あたたかいものが肌を濡らし、生まれたばかりの小さな手には、紅い刃が握られていた。 血色の水鏡にうつった俺のすがたは、あきらかに異形だった。血の代わりに涙がながれるから、肌はあおじろく、死体のように冷たい。精神がおかされているのだろう、髪は純白でほそくてまるで老人なのに、鼓動だけはどくどくと妙に強く、自分でも気持ちが悪くなりそうだ。そしてやけに目立つのが、金色にもえる、怒れる瞳で。 ふたたび遠くなってゆく意識の中で、俺はあいつの鼓動と自身のそれが、重なってゆくのを聞いた…… |
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