ずいぶんと、時の流れをはやく感じるようになった。

あれから。あの時から。

自分の唯一の家族だった女性を、自分の手であやめてからだ。

ふと気付くと、何時間、いや何日もたっているということがよくある。だんだんとその空白の期間は長くなって、いまでは一・二週目覚めないこともざらにある。けれど周りは、僕のことを変には思っていないらしい。

誰かが、僕のあずかりしらぬところで呼吸し、脈動している。何かを大切に守りながら……いや、何もかもを隠しながら。

何もかもを隠して、それでいったい何を守っているというのだろう。

……知らなくてもいいことだ、そんな事。

眠っているあいだの暗闇は、とても心地よくて、何も考えずにいることができるから。すべてを忘れて、ただ眠っていられるから。

その時間を与えてくれた名も知らぬ彼は、求めれば応えてくれる。でも、それは自分の正体を知られることを恐れているようにも思えた。だから僕は、彼のすべてを求めない。彼がいなくなってしまえば、同時に僕も壊れてしまいそうな気がしてしかたがない。

それは危惧と呼べばいいのだろうか。それとも自己防衛本能?

なにもかもを苦痛に感じる瞬間があって、ぎゃくに何もかもが苦痛でなくなる時間もそこにあって。

ずいぶんと、時のながれをはやく感じるようになった。







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