あいつが消えた。

どこに行ってしまったのだろう。何の音沙汰もなくなってしまった。一番つよく繋がっているはずの俺にわからないなんて……いままでそんなこと、なかった。

いつ、なぜ、どこへ……何もわかりはしない。分かるのはあいつの生死だけ。あいつが消えれば俺も死ぬ、そういう関係だから。

放っておけばいいのに。

ふいにそんな考えが頭をよぎった。このまま放っておけば、あいつの体は俺のものだ。俺は本物になることができる。もう何もしがらみなんてなくなるんだ。

でも、放っておくことはできなかった。あいつを探さなければ、俺はもう傷つかなくてすむはずなのに。あいつが見えなくなった、ただそれだけでどうしてこんなに不安なのだろう?

……簡単なことだ。俺には自由なんてものはないから。どんなにあがいたって俺はあいつの一部で、しょせん影でしかないのだから。そんなこと、嫌というほど分かりきっている。

そうだ、俺はあいつだ。なのに俺にはあいつの居場所がわからない。

何日か手探りしているうちに、俺の不安はすこしづつ正体を現し始める。

俺は闇に棲むもの。本当は表舞台には決して立つことのできない者だ。本物の役者のあいつが舞わなければ、あとを追いかけることしかできない俺では限界がある。スポットライトは代役には熱すぎて、そのうち倒れてしまうだろう。そうなれば本末転倒だ。

あいつでなきゃ、駄目なんだ。

そこに気付いたら、引きずってでもあいつを舞台に立たせてやろうと、そうおもえた。俺は消えても何の影響もないけれど、あいつが消えたら俺だって消えてしまう。

あまり強くもない戦士が、楯だけで戦えるだろうか?楯がなくても剣があればなんとか敵に立ち向かえるだろう。俺は楯、あいつは自由をきりひらく剣をもつ者だ。そしてきっとあいつは今、剣を見失っている。

……いや、そんな理由なんて本当はどうでもいいんだ。素直にいえば、俺はただ単にあいつに消えてほしくないだけだ。

あいつはどこかに行ってしまったように、何の音沙汰もない。







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