音。響いてくる、おと。

息をする音すら聞こえないのに、心臓のおとだけが響いてくる。

気がついたら、いつのまにかここにいた。冷たくて、悲しくて、イライラして。とても静かなのに、ひどくうるさいような気がする、そんな不思議な場所。こんなところ、現実には絶対にない。

ひどい。

そこへ行って、景色を見回してまずそう思った。薄暗いせまい部屋の床には、なにか得体の知れない薬の瓶、割れたグラス、注射器なんかがちらばっていた。部屋全体には薬のせいか、ものすごい異臭が漂っている。こんなところにいたら、体が腐ってしまいそうだ。

見覚えがある。

それもそうだ、そこは僕が十年をすごした家なのだから。たしかにおぼろげな記憶では、こんなつくりをしていた。でも、こんなにひどく散らかった部屋ではなかったはずだ。明るくて、きちんと掃除のされた清潔な部屋、そのはずだった。僕はそこで愛されて育ったんだ……。

どうしてこんなに、記憶が歪んでしまっているのだろう?それともこれは、彼の記憶なのだろうか……きっとそうだ。だから彼の目はあんなに冷たいんだ。かわいそうに。

僕の本当の記憶はどこにあるんだろう。僕は何かに導かれるようにして、その部屋をでた。ぼくは一体、どこへ行けばいいんだろう。

頭のかたすみで音が……響いていた。







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