ここはどこだろう? ふらふらとずいぶんさまよって、辿り着いたのは穴だらけの世界。虫食いのように黒い穴があちこちに開いていて、けれども穴のあいていないところにはとても美しい風景がひろがっていて。 穴の隙間の背景は、どこかで見た……でも、一体なんの景色だった? 居心地はよかった。だからここでしばらく過ごしていた。時間の感覚がないから、もう何度眠って起きたのかよくわからない。でも、それを繰り返すうちに……「世界」の穴はすこしずつ大きくなっていった。最近は僕の体さえ干からび始めている。 そうか。僕は消えるんだ。 それだけがやけにはっきりと頭の中に残っていた。と、いうよりも、他のことはぼんやりとかすんでしまっていて、あとはもうどうでも良くなっていた。自分が何をしたくて、どこへ行きたいのかもよく覚えていない。 漠然とした記憶、うすれていく感情。光のない闇、誰かの声、死への道行き。消えゆく「世界」は、あえて言うならそんな妙なものの混じりあったようなところだった。僕はその中を、自分が何者なのかもわからないまま漂っている。 ふとすわりこんだまま自分の手に目をやると、まるで老人のような枯れた手がうつった。でも足先は若いままで、アンバランスな人形みたいだ。 ただ、誰かが来るような気がしていた。ここで待っていれば、きっと誰かがくる。そうおもえた。だから僕は居心地のいい世界のなかでぼんやりと誰かを待っている。 彼、としか浮かばない誰かを。彼は、だれだった? 眺めていた指先が、そのうち風化してぼろりと灰のように崩れた。さらさらと音を立てて、それは黒い穴のなかに吸い込まれていく。 穴だらけの世界。その本体だった、美しい雪の風景。 ここは……何処? |
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