……やっと、見つけた。

あいつはいた。壊れかけている、記憶の残骸のなかにうずくまって。

はっきりと見たわけでもなければ、声をかけたわけでもない。ただ夢で見た、それだけだ。でも、こころの中をうつす夢に、意味がないわけがない。何も証拠はなかったが、確信だけは十分すぎるほどあった。

心のずっとふかい底のあたりで、あいつは虚ろな目で何かを見ている。あいつを取り囲むのは美しい記憶だ。そしてそれは、今まさに忘却という手段で葬られようとしていた。……あれはいったい、なんの記憶だったか。

夜中、周りは静まりかえっている。だいぶ緩んでいる水道からおちる水滴の音が、やたらと怪談ぽい音を響かせていたが、もともと化け物みたいな存在の俺にはそんなものなんの効果もない。

俺はまた眠りについた。あいつを引っ張り出すために。

あいつはきっと嫌がるだろう。ああいうところは、居心地のいいところだと相場が決まっているから。

でも、居座ることは俺が許さない。俺が代わりに置き去りになったって、ましてや消えてしまったって……あいつを表舞台に引きずり出す。

でも、それには条件があった。あいつがじぶんから納得して出て行かなければ、また俺のような存在が作られるだけだ。そして今度はきっと、際限なく増えていく。そうなったら手におえない。

もっとも単純で一つしかない、でもいちばん困難な条件。

不安と喜びと焦りとをない混ぜにしたような、そんな複雑な、けれどニセモノの感情を抱えたままで、俺は闇の中へとふかく沈んでゆく。

絶対に辿りついてやる。ガキはきちんと仕込んでやらないと、いつまでも外を知らないままで、敵ばかりの世界に追い詰められてしまう。

俺を消し去る勇気を、あたえてやろう……







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