突き刺さる風の音が聞こえてくる。

風の音、冷たい音、雪の音。

ずっときいていたような、全然きいたことがないような。聞いたことがあるのなら、一体どこで聞いていたというんだろう。思い出せない……無理に思い出そうとすると、頭が割れそうなほど痛むんだ。気分が悪いから、もう何も思い出さないことにした。記憶はどんどん薄れてくる。

かろうじて楽に思い出せるとしたら、彼の存在。名前ももはや思い出せないけれど、僕の中ではとても大きな……。

大切なものは何だった?

からだも思い出も……精神さえ風化してどんどん崩れていく。全てが少しずつ……すこしずつ、喜びも、憤りも、悲鳴も、なんの感情もない虚空のなかに、砕かれ、吸い込まれ、そうして消え去っていく。

冷え切った世界。真っ白で、真っ黒な世界。もうほとんどのものが壊れはて、消えゆく世界に、僕は溶けはじめる。

ふと、目を閉じた僕の顔に、あたたかなしずくが伝い落ちるのを感じた。

……大切なもの、それは何だった……?

突き刺さる風の音に、誰かの声が混じってくる。

雪の音、冷たい音、風の……おと。







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