雪が降る。 渦巻く風にのって、しろいモノが空から舞いおりて来た。穴の開いた世界に降るそれは、何かにふれるたび、そこを修復してゆく。 真っ白な景色を、純白の音なき舞いがいろどっている。まるで彼の頭髪のような色をした雪が、暗い穴を埋めてゆくのだ。そうしてそれが僕にふれれば、やはりそこからぼろぼろの体が癒されていく。 僕は動けなかった。いや、動かなかった。 手足はもはや朽ち果て、行動する気力すら流れきってしまったようだった。言葉はもはや……いや、ことによると声すらでないような、そんな気がしていた。 すべて投げ出してしまった僕。壊れてしまった人形のような僕。 一人きり、その場所は死んでしまうのに最適に思えた。もう、疲れたんだ。はやくこの世界と共に消えてしまいたいとさえ思っていた。全部がぜんぶ、どうでもよかった。 でも。 雪の冷たさは僕の気持ちまで、なおしてくれたのだろうか。何かに急かされるような気がして、僕は立ち上がろうともがいた。荒涼とした風が邪魔をして、体を斬り裂いてくる。けれど僕は必死になって……機械人形のようなぎこちなさで立ち上がった。朽ちた皮膚のおおくが、枯れた音をたてて崩れていったが、かまわなかった。 ひからびた体を引きずりながら、僕は声をあげる。何を言っているのか、自分でもよく分からなかった。ただ一生懸命になって、声を絞り出していた。 静かな白い砂漠に涙がおちたのは、どれくらい経ったころだったか。 白くて黒い闇の中へ消えていった声は、かすかな心地よさを残して旋律となった。気付いてくれるだろうか……「彼」は。 全てを洗い流しながら、雪がふる。 |
BACK | 目次 | NEXT |