ぽたり。 しずくが顔に落ちてきた。ぽたり、ぽたり。やがてそれは土砂降りの雨に変わっていく。滝のような轟音を響かせて、俺の上に落ちてくる。 冷たくはなかった。しみわたってくるあたたかさは、むしろ傷ついた体にやさしくて、ひどく心地がいい。 冷え切って暴れ狂うそよ風に、あたたかで穏やかな土砂降りがまじっている。立ち止まり、しばらく雨にうたれてみると、濡れそぼった全身が「これは雨じゃない」とさわいだ。 ナミダ。 きっとあいつが流しているんだろう。自分を見失って、やりたいことも分からずに、生きる目的も見えずに。移ろいやすくて、傷つきやすくて。それなのに、プライドだけはやけに高いんだ。自分が侵食されていくことに、一見身をゆだねているようで、でも捻じ曲げられたくない。そんな勝手なヤツだ。 うずまく嵐の、その冷気と暖気の狭間で俺のからだはきしみ、引き裂かれてゆく。夢の中の暗い道……あいつは俺がいることを、本当は拒絶しているはずなんだ。 この先にあいつはいる。俺はいよいよ確信して、ふたたび進みだした。 少しずつうすれていく、おれ自身の記憶。時間がどんどん逆行して、歩幅は小さくなってゆく。そのくせ、消えてゆく記憶は過去からだ。両側からきえていく自分自身に、俺のこころまでがきしんでいる。 俺が、あいつに還っていく。朽ちかけていたあいつの中にも、外にも。全てを濡らす雨が「俺」を洗いながしていく……。 ぽたり、ぽたり。 |
BACK | 目次 | NEXT |