ぴちゃ、ぴちゃり。ぴちゃり、ぽた。

ゆるくなった蛇口から落ちるしずく。まるで怪談みたいな音だ。みんな寝静まっているから、余計に施設内に響く。

なんだか心臓の辺りと胃の上あたりがもやもやとしてすっきりしない。眠れそうにないので、布団を抜け出して外に出てみることにした。

目を覚ましたら、それは僕だった。ずっと見ていなかった景色が、なんだか映像を見ているみたいな変な気分になってしまう。でも、まぶしいほど明るくはなかった。静かで、薄暗い……まるで七年前のあの日のようだ。この手に握ったナイフの感触は、未だに消えずに残っている。

僕は、俺で、俺は、僕で。

毛をさかなでされたような感情。これは彼と僕、一人の人間として生きるのは前途多難そうだ。でももう、頼るべき分身はいないんだ。彼は僕、僕は彼。

なんども言い聞かせるように、心の中で繰り返す。けれど、実感はあまりわかないんだ。目をとじたらまた、彼が出てきてくれそうな気がしている。まだそうやって、甘えている僕がいる。

くれないの砂のつまった砂時計が、まるで毒を含んだ旋律のように鼓動している。空洞になったヒカリたちのうた声は、もう彼の耳には永遠に届かないだろう。いや、届いているのだろうか。消えてしまったとびらの向こうへ、しずくが伝っていくように。

逆行する記憶はもはや、彼のも僕のも繋がり始めていた。切れぎれだった時間の間がぴたりと重なって、まるで一人分の記憶のような……。

水面にうつった彼の影は、もはや霧のような幻と化して、いずこかへ去っていこうとしている。

ぴちゃ、ぴちゃり、ぴちゃり、ぽた。







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