僕はだれ、なのだろう。

彼と入れかわり立ちかわり、光と闇とに出入りしているうち、最近は本当に自分が誰なのか、わからなくなってきていた。どちらが本物の僕なのだろう。彼がぼくの影なのか、ぼくが彼の影なのか……どちらも自分であるからこそ、始末が悪い。

このままじゃいけない。何故かそう思った。

このままじゃ、僕はまたひとりになってしまうから。あの日からずっと連れ添ってきた「彼」と、離れてしまうのはいやだ。

彼は何かを恐れていたようでもあった。きっといつか、誰かが彼の時間をうばいさってしまうかもしれない、という不安だったのかもしれない。どこかで、気がついたら彼が消えてしまっていたら……そう思うと、僕もこわかった。

僕には名前がある。でも彼にはない。だから不安なんだ。だったら名前をあげればいい……。まるで子供のような考えだとふと思ったが、それが本心だった。

僕は彼に、名前をつける。「星生」――せいき、と。我ながらきれいな名前をつけたと、幼子の満足感があった。

彼は、誰なのだろう?

深いふかい意識の底の、暗い闇のふちから、彼は生まれた。血の雨をあび、雄たけびを産声がわりにあげながら。ほの白くひかる刃の切っ先を、周りに、そして自分にも向けながら……まるで銀色の角をもった鬼のように、全てに背を向けて生きているようにみえる。

いれかわる度にきこえる彼の鼓動。低く、ゆっくりとそのリズムを時に刻みつけていく。落ち着いてはいるけれど、どこか冷たい旋律のあるじは、僕であるけれど僕自身ではない。

僕は、誰なのだろう。







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