鬼が、棲む。

この表現が、いちばんしっくりくる。俺は、鬼なんだ。

誰かの手に握られたガラスの欠片に、皮膚をゆっくりと裂かれていく感触。冷たいが、痛みは感じない。赤い血すら流れはせず……ただ青い液体がにじむだけで、傷口のすぐにふさがってしまうからだは、傷つくということを知らない。そんなものを、だれが人間と呼べるだろうか。

人間でないのなら、俺はなんなのだろう?なんのために、こんな体をもってうまれた?

こたえは一つだけだ。あいつを護るために、俺はうまれた。

あいつが望むなら、この手が血に染まろうが、身を引き裂かれようが、それを俺はいとわぬだろう。あいつの氷漬けにされてしまった心を溶かせるなら、俺の魂ごと燃やしてでも焔をつくってやる。

いつかこの星の風がやみ、時のながれが永遠の枯れ川になってしまったとしても、俺はあいつを護るためにあるのだろう。

「せいき」……あいつのつけた俺のなまえに、鬼をみつけた。皮肉なものだ。星を生み、生かすはずのその音が、鬼を棲まわせたのだから。

体のなかを、どこまでも空虚で、しかし嘘や偽りのない冷たい風が音をたててとおりぬけていく。けっして途切れることのない音の嵐に意識をゆだねれば、ここちの良い奈落が体をなでる。

うめき声のような音。それにつつまれて眠る俺。涙さえしらない、銀色の旋律と紅い爪……

俺は……鬼だ。







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