気がつけば、あれから七年もたっていた。 今では何の苦もなくすごしている。孤児院での生活は、前よりもだんぜん良くなった。どこからかふらりと帰ってきては、通じない言葉のようなものを口からたれ流して毎日殴りつける母親も、ここにはいない。 それになにより、彼がいる。いつもそばにいてくれて、何かがあれば護ってくれるし、僕の望むとおりでいてくれるから。 きっと普通の僕なら立ち直れないほどの傷も、彼がいたおかげでここまで生きてこられたんだ……なのに。 周りのひとたちは僕を病気だという。僕にとって彼が毒になるのだといって、摘発しようとする。僕を、ひとりにしようとする。 ある日、僕は知らない建物へ連れて行かれた。病院、という文字が車の窓からみえたので、どこも悪いところはないといったが、聞き入れてもらえなかった。どうせカウンセラーかなにかのところだろう……僕は何も異常じゃないのに、周りは僕を幼い頃にしでかした事のショックで頭のおかしくなった、かわいそうな変人だと思っている。 なんどかの病院通いで診断された「多重人格障害」というのは、僕も彼も初めから承知していた。世の中ではただの珍しい病気だと思われていることも。 それでも僕にはまだ彼が必要なんだ。どうして誰も分かってくれないんだろう? ……気がつけばあれから七年もたっていた。 |
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